こんにちは、Riiid(リード)Global Brand Chapterのブランドデザイナー、チャン・ジュサンです。
技術中心のAIed企業であるRiiidでは、さまざまな学習プロダクトを制作しています。AIベースの診断および学習技術を中心に市場へ多様なプロダクトを展開することで、新しい技術とアイデアを実験し、新たな市場を切り拓くためです。今日お話ししたい「Santa SAY(サンタセイ) 」はSantaのファミリーブランドで、TOEIC Speaking語学試験の本番と同じ環境でスピーキング練習を行い、スコア予測や添削を受けられるAI模擬試験サービスです。STT*、スコア予測、文法修正などのAIモデルが活用され、短時間かつ低コストで目標スコアの達成を支援しています。
*Speech-to-Textの略語で、音声をテキストに変換する技術を指します。
プロジェクトを進めるにあたり、SAYのブランドアイデンティティの目標を3つ設定しました。複数のプロダクトを作る技術企業において、ファミリーブランドを作る過程の中で以下3つの目標を達成していきながら感じた悩みと、その過程を共有したいと思います。
1. Santaのファミリーブランドとして認知されること
2. 会話ベースの学習サービスを表す独立したモチーフの発掘
3. 競合サービスと差別化されたサービスアイデンティティの構築
「新しい会話ベースのプロダクトが出ます…!」
ブランド構造
新しいプロダクトが登場する際、さまざまなプロダクトブランドを持つ組織のブランドチームは、まずブランドポジショニングのために「ブランド階層」を検討することになります。既存ブランド間の関係性定義を通じて、ブランド管理の効率性と各ブランドの役割・責任を明確に定義する必要があります。
Santa SAYは「TOEIC Speaking」試験対策プロダクトであり、Riiidの複数のプロダクトの中でも自然に「TOEIC」試験対策サービスであるSantaとの関連性を持つことになりました。具体的な新規プロダクトのブランド関係性および階層を定義するために、TOEICとTOEIC Speakingという2つの試験の特性を把握することが必要でした。
「Santaを利用するTOEIC準備ユーザーが『TOEIC Speaking』へ試験種目を切り替えたり、2つの試験の間に連携性はありますか?」
「ありません。名前が似ているだけで、評価領域、試験時間、受験料、試験周期、スコア範囲、主要評価領域のすべてが異なります。」
大きく異なります。TOEICとTOEIC Speaking
結論から言うと、TOEICとTOEIC Speakingプロダクトでは顧客ニーズが異なるため、ブランドポジショニングも変える必要がありました。
TOEICとTOEIC Speakingはどちらも英語力を評価する代表的な試験です。「TOEIC」と「TOEIC Speaking」は互いに似ているようでいて、試験の特徴とそれを準備する過程は、重なる部分がないほど非常に異なっています。試験評価領域として、TOEICは「リスニングと読解」中心で英語能力全般を評価する試験であり、TOEIC Speakingは「話す能力」を集中的に評価する試験です。
英語試験学習市場における顧客ニーズは「効率性」です。目標スコアを達成するためにかかる時間、試験準備に必要な金銭的コスト、自分の学習レベルに合った講義の選択といった要素を効率的に設計し、目標達成を支援することが重要です。試験種目を選ぶこと自体も、効率的に選択されます。
就職、大学院進学、留学、移住、海外就職など、スコアが必要となる目的に応じて、複数の英語試験のうち1つだけを独立して選び、学習する形です。この独立性のため、TOEIC試験を準備するユーザーがTOEIC Speakingへ切り替えたり、TOEICとTOEIC Speakingの両方を同時に準備したりはしません。両方を準備する際に失われる時間や費用の機会コストが非常に大きいため、2つの試験のうち1つだけを学習するという顧客特性があります。
独立しているが、関連性を持つ
このように両サービスの顧客は重複しておらず、既存ブランド「Santa」がTOEIC Speakingドメインを包摂できないことなど、複数のステークホルダーの意見を反映し、独立性を持つブランドとして認知されるべきだと決定されました。しかし両サービスは依然として米国ETS(Educational Testing Service)が主催する試験対策プロダクトであり、TOEICというワーディングが共通して入っている点、Santaブランド認知を活用してマーケティング効率を高める戦略などを踏まえ、独立していながらも関連性を持つブランドとして認知されるべき、という点をブランドデザインの目標として設定しました。
[目標1]Santaのファミリーブランドとして認知されること
このように名称には同じく「TOEIC」が入っているものの、互いに独立した受験市場と顧客の学習ジャーニーを把握し、ブランドチーム内で複数のブランド構造について議論を始めました。

上記4つのブランド階層を1つずつ当てはめながら最も適した構造を探しました。まず1つ目の、既存ブランドにドメインを追加する形の「Branded House」構造の場合、「TOEIC Speaking」準備顧客がSanta SAYブランドを見て「TOEIC」と認識してしまうアイデンティティの混乱につながる可能性があり、新規ブランドの独立性も低いため、この構造は除外しました。3つ目の各ブランドがそれぞれ独自の個性を持つHouse of Brandsと、4つ目のEndorsed brands構造は、Santaとの関連性が低く、英語学習プロダクトであるという認識やマーケティング上の難しさがあると判断し、除外しました。最終的に、TOEIC Speaking対策サービスが「Santa」というブランドの中にありつつ独立性を帯びた「Sub Brands」構造のブランド階層を定義しました。
素早く機能するブランド開発プロセス
SAYのブランドアイデンティティを構築するまで、結果的には比較的短い時間で進みました。多くの技術中心の組織では、プロダクト開発とブランドデザインのタイムラインを合わせることの難しさを抱えているのではないかと思います。時間があまりに差し迫っているため完成度が不十分になったり、プロダクトチームの意見が十分に反映されなかったり、将来的な拡張性を考慮しづらい結果になったりすることもあります。
これを解決するため、現在のプロダクト制作組織の意見を素早く捉え、今後のブランドの方向性にも柔軟に対応するために、最も基本的な構造を持つブランドアイデンティティを構築する方法としてMVB(Minimum Viable Brand)プロセスを適用しました。広く使われている概念ではありませんが、MVBとはMVP(Minimum Viable Product)に類似した概念で、製品やサービスの最小限のブランドアイデンティティを構築して市場に投入し、ステークホルダーや顧客の反応、選好などのインサイトをもとに製品やブランドイメージを改善・拡張していくブランドデザイン手法です。
1段階 : ステークホルダー Brand In-depth Interview
MVBプロセスの始まりとして、プロダクトのステークホルダーを対象に、素早く回答できるBrand In-depth Interview文書を制作して共有します。
Q. 顧客がプロダクトに期待する効用は何でしょうか?
Q. このプロダクトのコアターゲットは誰だとお考えですか?
Q. 5年後に想像されるこのプロダクトはどのような姿でしょうか?
(In-depth Interview設問の一部)
2段階 : ブランドミッションを定義する
その後の詳細なプロセスとして、ブランドデザイナーとブランドストラテジストが各インタビュー内容を文ごとに分解し、それらをグルーピングします。また、プロダクトが果たすべきこと、すなわち戦略やPoCを通じた顧客フィードバックの内容なども確認します。最終的には、プロダクトが中核として解決することを顧客の言葉に変換し、顧客価値、すなわちブランドミッションを定義します。

3段階 : ブランド印象を捉える
また、プロダクトメーカーたちが考えるブランド印象を捉えるためにBrand Personality Sliderを実施。キーワード結果の優先順位を並べ、チーム全員が合意できる土台を整えます。Personality Slider実施時に重要なのは、ステークホルダーにとって馴染みが薄く曖昧なブランドキーワードを視覚的・観念的に捉えられるよう、具体的なブランド事例を提示することで同じ印象を持てるようにすることです。

合意可能なキーワードの提示を通じて、各ステークホルダーがまったく異なって考えている点、また同じように考えているブランド印象を捉え、最も多くの合意を引き出したブランドキーワードを導き出します。これにより、素早く実行・機能できるブランドアイデンティティ開発のために、最小限の文書でプロダクトチームが考えるブランドイメージを捉えました。

ステップ4:ブランドネーミング
ブランドネーミングのアイデア出しを行いました。IT企業でハッカソンを実施するなど、プロジェクト型のプロダクトを開発する場合、初期のプロジェクト名をそのままブランド名として使うケースも見られます。「プロジェクト名」を設定し、初期アイデアを発展させていく過程で、その名前に愛着が湧くものですが、最終的に顧客へブランドを露出する際、さまざまな認知要素を考慮しなければならないブランドチームとしては、悩みが深くなります。
正解はないようで、あります
プロダクトのネーミングを選定するうえで最大の難関は、「正解がないように見える」という点です。そのため、名前を検討し変更するブランドチームの立場では、ときにプロダクトチームと対立することもあります。しかし、ブランドネーミングには正解がないように見えても、良いネーミングはプロダクト認知の助けになり、ファミリー全体に合ったネーミングルールによって上位ブランドとの関連性や立体的な印象を与えることができます。だからこそブランドチームは、組織独自のネーミングルールとプロダクト名もまたデザインされるべきである点を組織内に伝え、その理解を高めるために努めています。(GBCチーム、ファイト!!)
上記のようなブランドネーミングの観点を共有しながら、プロダクト関係者の皆さんを含むデザイン組織とともに、ブランドネーミングのアイデア出しを進めました。Santa SAYの初期プロジェクト名は「Santa Sprite」でした。これは、話す(Speaking)と書く(writing)を組み合わせた造語でした。Spriteという名前自体も良いものですが、直感的に「会話、すなわち口語」で進行するTOEIC Speaking試験を連想しにくい、というのが主な意見でした。ブランドネーミングを決める方法はさまざまにありますが、MVB方式で議論の密度を高めつつ混乱を減らすため、ネーミングアイデアのフレームを提供しました。
「こんな方法があるなんて知りませんでした!こういうフレームがあると、0から絞り出すより、むしろ気軽にどんどん出しやすい感じがして、不思議で面白い体験でした」

短い時間の中で、プロダクトチームとブランドチームが一緒に合計46個のネーミング候補を出し、最終的に3案を選定しました。1位 Santa SAY(サンタセイ)、2位 Hi Santa(ハイサンタ)、3位 Santa R.eech(サンタリーチ)。この3つのうち、「Speaking Ai for You」の略語であり、動詞として「話す」という意味も持ち、会話サービスであることを直感的に認識できるSAYを1位候補に選びました。

このようにMVBプロセスを通じて、ブランドデザインを具体化するための材料であるブランドミッションや印象、ネーミングを導き出すことができます。MVBプロセスにより、迅速かつ効率的に、多くの関係者の意見を聞き、ブランド構築過程に参加してもらうことで、プロダクトと整合したアイデンティティ制作の土台を築きました。
最近では、顧客がブランドに期待することが多様化し、顧客との関係や共感形成に焦点が当てられています。こうした顧客の変化に合わせ、ブランドの多様性を確保するなど、継続的にブランドを変化させています。社内においても、急速に変化し適応していく組織に合わせて、ブランドを作るプロセスで直面する問題を解決するため、ときに実験的な挑戦を行うこともまた、教育市場におけるinefficiency(非効率)、inconsistency(非一貫性)、inequality(不公平性)という3つの「i」を取り除いていくRiiidらしさだと考えています。
「ブランド制作の過程に参加すること自体が楽しかったです!頼めばぱっと出来上がるものではなく、こういう要素を考慮するんだな〜とブランドチームをもっと理解できた気がして、より良かったです!」
SAYブランドをデザインしながら、プロダクトチームや関係者の意見を聞く時間よりも、成果物の完成度を高めることのほうが良いのではないか、という質問も受けました。これに対する答えとして、今のようなAI時代において、ブランドデザイナーにより必要な能力は、開かれた耳と心、そして共に作っていこうとする受容的な姿勢だと信じています。
次回の記事では、ブランドデザインを具体化するための材料(ブランドミッションと印象、ネーミング)を通じて、最終成果物を導き出していく過程についてお話ししたいと思います。
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